12/05/2026
喫茶美術館マスターのつぶやき…
西村秀樹さんから映画「絞首台からの生還~在日韓国人スパイ捏造 冤罪事件の半世紀」の情報が届きました。
みなさま、ぜひ映画館に足をお運びください。
【毎日新聞 2026年4月25日(土)】
在日韓国人を「北朝鮮スパイ」扱い
冤罪事件の半世紀 映画公開
毎日新聞2026/4/24 09:15(最終更新 4/24 17:54)
希望を胸に留学した国で突然、スパイ扱いされ、死刑宣告を受ける。そんなことが想像できるだろうか。それも自身のルーツにつながる国だったら――。
1970年~80年代にかけ、軍事独裁政権下の韓国で、留学中などの多くの在日韓国人が「北朝鮮のスパイ」とみなされ、うち9人が死刑判決を受けた。半世紀を経て、大阪府内在住の2人のベテランジャーナリストが事件を改めて検証し、映画「絞首台からの生還~在日韓国人スパイ捏造(ねつぞう)冤罪(えんざい)事件の半世紀」を製作した。5月中旬から京阪神の映画館で上映される。
半世紀の節目に
製作したのは、元毎日放送記者の西村秀樹さん(75)=箕面市=と元NHKカメラマンの小山帥人(おさひと)さん(84)=大阪市。
「長い間、在日韓国・朝鮮人は『見えない存在』にされ、重大な事件なのに番組や書籍としてまとめられることはなかった。半世紀の節目にジャーナリストとして何か形にして残したかった」(西村さん)。「南北分断によって在日社会も分かれ、扱いにくいテーマだった。ずっと何とかしたいと思っていた」(小山さん)。思いを同じくする2人がタッグを組み、2024年春に撮影を始めた。
映画をもとに事件を振り返る。朴正熙(パクチョンヒ)大統領らによる軍事政権下で、約160人の在日韓国人がスパイ容疑をかけられ、うち9人が死刑判決を受けた。1975年11月22日、韓国中央情報部(KCIA)が在日韓国人の政治犯摘発を発表したことから「11・22事件」と言われる。
映画は、死刑判決を受けながら生還した在日韓国人へのインタビューを軸に構成されている。大阪市在住の李哲(イチョル)さんは48年生まれ。熊本県で育ち、中央大を経て、高麗大大学院に留学した。75年に身に覚えのないスパイ容疑でKCIAに連行され、婚約者の女性も後に拘束された。厳しい拷問の末に裁判にかけられ、死刑判決を受けた。
51年生まれの康宗憲(カンジョンホン)さんは大阪市生野区などで育つ。府立天王寺高を卒業し、ソウル大医学部に留学。75年に韓国軍保安司令部に連行され、身体に電気を流すなどの拷問を受け、調書を捏造されて死刑囚となった。
軍事政権が続いた韓国では、多くの犠牲者が出た光州事件(80年)を経て、87年にようやく民主化が実現する。スパイ犯で死刑囚となった9人全員が解放された。李さん、康さんとも再審の末、2015年に無罪が確定した。
南北分断のいけにえ
旧ソウル拘置所(現西大門刑務所歴史館)を訪れる李哲さん(映画のワンシーンから)=「絞首台からの生還」製作委員会提供
なぜ、留学中の学生が標的にされたのか。西村さんは「留学生たちは朝鮮半島の南北分断のいけにえにされた」と語る。当時、韓国は「反共」を国是としていた。北朝鮮の脅威を印象づけ、国内の引き締めを図るために留学生をスパイにでっちあげたとみられる。
厳しい言論統制下にあった韓国では、死刑囚の解放を訴えることは不可能だった。一方で、日本国内では死刑判決を受けた留学生の友人や地域住民が声を上げ、大阪や東京、熊本などに100近い救援団体ができた。「日本の社会運動は挫折することが多かったが、スパイ捏造事件での救援運動は結果的に死刑囚の生還という成果につながった」と小山さんは語る。
西村さんは映画製作と並行して映画と同じタイトルで書籍も執筆し、事件から50年の25年11月22日に出版した。映画には盛り込めない事件の詳しい経緯や朝鮮半島の歴史、最新の韓国政治の現状に触れ、スパイ捏造事件を立体的に再構成した。西村さんは「事件の背景には朝鮮半島分断があり、さらにその背景には日本の植民地支配がある。日本の責任は小さくない」と語る。
日本社会にも危うさ
西村秀樹さん著「絞首台からの生還」(三一書房)では、韓国の闇を浮かび上がらせるとともに、同様の国家犯罪を起こしかねない日本社会の危うさにも触れている。
高市早苗首相は国家情報会議の創設に力を入れ、スパイ防止法の成立にも意欲を燃やす。一方、日本の司法制度は検察に強い権限があり、「人質司法」という指摘もある。いったん死刑判決が出ると、無実を訴え続けても再審無罪を勝ち取ることは至難だ。冤罪被害を迅速に救済するための再審法改正の議論もなかなか前進しない。こうした現状から西村さんは「日本はまだ人権後進国だ」と訴える。
関西での映画上映は、▽シネ・ヌーヴォ(大阪市西区)が5月16日~6月12日。16日に康宗憲さん、17日に李哲さん、18日に小山帥人さんの舞台あいさつがある。▽京都シネマ(京都市下京区)が5月15~21日。15日に康さんがあいさつ。▽元町映画館(神戸市中央区)が5月23~29日。23日に西村さんがあいさつ。
書籍「絞首台からの生還~在日韓国人政治犯の半世紀」(三一書房)は2420円。【鵜塚健】