10/06/2026
#小林健太
本展で小林は、写真データに直接触れてピクセルをひきのばしたり、混ぜ合わせたような「 # smudge」シリーズ___実際には画像編集ソフト「Photoshop」の指先ツールで写真を加工している___から派生した新作群を展示する。それはiPhone で撮影したイメージを、iPhone のなかで加工した写真である。
インターネットのなかを拡散しながら繰り返しコピーされて劣化する画像をヒト・シュタイエルは「貧しいイメージ」と呼んだ。それと対比してみるなら、小林の写真は、世界と肉体のファーストコンタクトを可視化するようだと私は考えている。人であれ、都市であれ、繰り返し同じ対象と出会うなかで私たちは「出会い」そのものに慣れていってしまう。しかし彼の作品を通じて都市や人に向き合うとき、出会いの新鮮さこそが回復される。
その作品は開封されたばかりの新品の家具のような輝きを放っているが、それは未使用とも異なる。新品のスマートフォンの画面についてしまった指先の皮脂こそが、新しい出会いを象徴するように、彼の作品における画像加工は見慣れた風景を新品化するように変容させる。そうした感覚をいち早く表現してきた点で、まず小林は重要だ。しかし写真表現における印刷や現像、設置における物理的な負荷によるイメージの劣化が世界中で試されるなかで、小林は出会いの新鮮さこそをを表現しているように思える点でも無視できない。
さらに小林は、今日のイメージの流通過程への制度的な批判ではなく、日常的なイメージのなかに刻印されながら不可視化された肉体を露出させる。そもそもフィンガーメイド概念の着想は小林の表現がなければ不可能だった。彼の過去作品のなかでも印象的だったのは、VR 用ヘッドセットをカメラとして用いて、自らの写真データやデジタルなストロークが浮遊する仮想空間のなかを移動する映像『REM』(2015)である。仮想空間のなかを浮遊するストロークはトラックパッドを通じた指先ツールの軌跡であり、映像の振動はヘッドセットを握る両手の不安定さの痕跡だ。本作は写真撮影の瞬間だけでなく画像加工のなかにも紛れ込む肉体の存在を明らかにする。
さらに言えば、彼の作品が表現する身体性が人間のみに中心化されてきたわけですらない。個展『自動車昆虫論 / 美とはなにか』(2017)では、都市のなかを走り続ける自動車を昆虫に見立てて撮影した。そこではアリや蜂における群知能の兆しとして、都市空間が捉えられている。つまり環世界___生物は客観的な同じ世界を共有しているのではなく、それぞれの生物が持つ身体器官によって独自に構築された世界を生きているという考え___的なビジョンまでを写真によって表現しようとしている。そこで私は世界を認識することと、機械で撮影することの距離について思考することを余儀なくされた。
こうして小林は、フィンガーメイド時代を起点としながらも、独自の仕方で複数の世界を生成し、そこにおいて可能な身体性を提示しつづけてきた。私たちは彼の作品を通じて自らの肉体と世界の関係を再編し、何度でも出会い直すことができるのだ。
布施琳太郎
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【展示概要】
「すごい指:フィンガーメイド時代のピクチャープレーン」
会期: 2026年6月3日(水)〜6月23日(火)
※日曜定休
アーティスト:小林健太( )、田中勘太郎( )、中西伶( )、米澤柊( )、布施琳太郎( )
時間:18:00-24:00
会場:WALL_alternative(東京都港区西麻布4-2-4 1F)
入場:無料・予約不要
企画・主催:WALL_alternative
グラフィックデザイン:八木弊二郎
助成:アーツカウンシル東京【芸術文化魅力創出助成】
nishiazabu